ANA国内線【PR】

夕陽と横顔

  ――少なくとも自分はこれからも乗ることをやめない。
 なぜなら、自転車に乗ることは、仕事の上でも、生活の上でも、自分が生きていくために、なによりもイイ感じだから……。
  ( 『サイクリング・ブルース』 忌野清志郎 / 小学館 )
 


 僕とカズ、多摩川べりを走ってきた。そしたら、夕刻に素敵なことがあったよ。
 三人の小学生が、サイクリングロードいっぱいに拡がって自転車を漕いでいた。僕たち、追い抜きのタイミングをのんびりと見計らっていた。
 ――まあ、子どもだからしょーがねえ。ここはしばらく、だらだら走ろうぜ、チャーリー
 ――お、カズってば心の広げな態度じゃん。オトナみたいじゃん
 ――てめえ、チャーリー。みたいじゃん、はよけいだろうが。オトナなんだよ、オレは。生意気言うと分解すっぞ、ばーらばらにするぞ
 ――ふふ、やれるもんならやってみればいいじゃん。僕を分解して、移動の手段はどうすんのさ ? 電車、乗るの ? 混んでるぞー、キツイぞー
 ――くうう。チャーリー、キミって生意気 !
 ――ふふふ。僕、勝利感 !
 …なんて、カズとじゃれあってたらさ、三人組、背後を走る僕たちに気づいたんだ。するとね、彼ら一斉に声をあげた。ごめんなさーい ! と、三人分のごめんなさい。
 カズ、思わず本気でお辞儀してたよ。僕を漕いでるから、首だけでなんだけど。
 高学年なんだろうな、思春期の入り口にいるっぽい感じの少年たちだった。釣りの帰りだったみたい。マウンテンバイクに竿とかツールボックスなんかを括っていた。
 三人を追い抜いてすぐ、カズは彼らのほうを振り返った。
 ――うわあ……
 ――なに どうしたの ?
 僕、後ろを振り向けないじゃん。だから、訊いてみた。
 ――あのですね、チャーリーくん。美し過ぎるかもしれない
 多摩川に夕陽が傾いていたんだって。少年たち、ますますサイクリングロードに拡がっちゃってさ、自転車漕ぎつつ、夕陽を眺めてたんだって。でね、並べた横顔を朱に染めてたんだってさ。
 ――あいつら、イイやつだな
 カズ、前景に集中し直しながら呟いた。
 ――けっこう生意気そうな面構えなのに、そろいもそろって夕陽にうっとりしてやんの
 僕を漕ぐカズの力が強くなった。照れ隠し、感動隠しだったのかもね。

# by tokigakataru | 2007-10-18 19:26 

今夜、月の出ることなく …カズの走り書き

 昨夜、『星兎』という本を読みました。
 で、ぐだぐだした感想は省きます。
 恥ずかしながら、涙ぐみつつの読書となりました。えーん。
 以上、感想終了 ! と思ったけど、終了できずに、あとちょっとだけ。 
 これまでにも極々一部を拾い読みしたことのある僕は、『星兎』を避け続けていました。
 ――どーせ、「アイデンティティ」がテーマのありがちなやつだろー
 そういう不遜な態度でいたのです。
 読後に大反省。木を見て森を見ず、…ってこういう場合に使っていいの ? バカなので自信はありません。でも、強く思い直したことならあります。本はきちんと全篇を読み通さねば。 
 赤瀬川原平氏の手による『宇宙の寄り道』、パウロ・コエーリョ『アルケミスト』、それらを再読したくもなりました。『星兎』の世界と響き合うところがあると思うから。

 
 今日、川崎・百合丘の住まいと青梅のちょっと先までを往復。もちろん、自転車で。
 さきほど帰宅し、いま、とても空腹。

# by tokigakataru | 2007-10-14 19:01 

なんなんだ、この乗り物は

 ――自転車に乗ってると、正直、子供の頃を思う
 カズが教えてくれた。
 ――身体の記憶なんだよ。そいつが胸のあたりを、どんどん突いてくるんだ
   
   
    どこへ行くにも自転車だった。   
    ペダルを漕いで漕いで漕いで、急ブレーキ ! 後輪を滑らせて遊んだなあ。
    カーブを走り抜けていくとき、遠心力が気持ち良かった。


 映写機、あるでしょ。自転車を漕いでいるとき、カズのなかで二台の映写機が回ってるんだって。一台は、目の前の光景を映しているもの。もう一台は、子供時代を映し出しているもの。
 ――そうするとさあ、やばいんだよ
 なにがやばいのか気になった。だから訊いてみた。
 ――ふーん、どんなふうに ?
 ――長くなるから説明しない。めんどくさがり仮面だ。とにかく、やばい

 僕、知ってる。
 カズはね、僕を漕いでるとき、とつぜん泣き出しそうになることがある。こいつ情緒不安定なのかみたいに。でも、カズに問題があるんじゃない。僕たち自転車は、乗るひとの気持ちをぐらぐら揺さぶる力を持っている。ホントだよ。ウソだと思ったら自転車に乗ってみて。すごいんだから。


 
 ――カズの走り書き――

 今日、まずは津久井湖へ。道中、友人の勤めるA大淵野辺キャンパスに寄った。


 昼過ぎ、湖を発つ。国道16号を八王子まで。後、20号を進み高尾山口にて折り返し。再び八王子に至り、浅川CR から多摩CR 。川崎・百合丘の住まいには夕刻帰宅。
 距離、95㎞。案外、短い。なんか、くやしい。


# by tokigakataru | 2007-10-04 19:26 

G千上のありゃりゃ

 今日の夕空、絶妙だったね。昼の名残りと夜の気配が明るい感じで混じりあっててさ。
 あんまり美しいものだから、カズのやつ、ベランダにカメラを持ち出してたよ。

 日中、カズと青梅の図書館まで行ってきた。川崎・百合丘の住まいからは片道45kmくらい。図書館なんて近所にあるのに、軽くはないパソコンまで背負うと、カズは僕を漕ぎだした。
 ふふ。カズにとって図書館とパソコンは言い訳なんだ。僕と出かけるための言いわけ。
 ――遊びに行くんじゃないもん、そのショーコに目的地は図書館だもん、パソコンだって持ってくもん
 と、出がけにカズがしどろもどろしたセリフ。僕には、…図書館に行ってきまーす、近所のじゃなくて青梅の図書館だけどー、図書なんて必要ないんだけどーー、パソコンだけあれば家でも事足りるんだけどーーー…、そう聞こえた。
 ――しーっ、聞こえないふりしろ
 カズ、人指し指を唇の前に立てた。平日昼間の自転車って、39歳にはあまり許されないらしい。




今回のブログ、タイトルは「G千上のありゃりゃ」。
ううう、苦しいけどさ「G線上のアリア」ってあるじゃん。

# by tokigakataru | 2007-09-27 18:30 

パソコンを奪われた! カズの走り書き

 ――くはあーっ !
 カズ、両腕を天井に向けて伸びをした。ソファの背もたれを使いながらストレッチ。
 ――おい、チャーリー。パソコンよこせ
  僕 ! たったいまだよ、このブログを記しはじめたの。



 

 ――カズの走り書き――
 
 こんばんは。カズです。
 今日は80kmほどを漕いできました。
 
 午前9時。川崎・百合丘の住まいから5kmほどの多摩川サイクリングロードへ。羽村の堰に向かう。途中で雨。
 11時半。羽村から折り返し、目指したのは溝の口。ある催しを観たかった。

 今日、食べたもの。
 朝、クッキー2枚。
 昼、ステーキをライス大盛りとともに。
 溝の口にたどりつく前のおやつ、クリームパンとチョコレート4片。
 そして、夕食。さて、なにを食べよう。パソコンに向かいつつ、空腹。

 9月に入ってからのことです。ほぼ毎日、朝練と称し、午前中に40kmほどを漕いでいます。それくらいの魅力が余裕にある自転車 !

# by tokigakataru | 2007-09-23 18:46 

高笑い、ふあっ歯っ歯っ !

 ――いいかげん、まずい。行くぞ、チャーリー
 だしぬけにカズが言ったんだ。そして、僕はサドルを叩かれた。今朝のことだよ。
 カズが僕のサドルを叩くのは、僕たちが走り出す前の儀式。それは解る。でも、どこへ行くんだろう ? まずいって ?
 ――歯医者だ歯医者、もう限界だ
 頬っぺたごし、右の奥歯のあたりをさすっているカズ。
  で、川崎・百合丘の住まいを出発したんだけど、
 ――ねえ、カズ
 ――なんだ ?
 ――今さあ、どーして僕とカズは奥多摩にいるの ?
 ――そんなの当然じゃん。歯医者が休みだったからじゃん
 当然、という言葉の意味が僕には解らなかった。
 ――歯、痛くないの ?
 ――痛てえ。すげえ、痛てえ
 ――…それなのに、まだ漕ぐの ?
 カズ、答える代わりにいきなりスピードを上げた。両脇の緑が後方へ流れだす。…ふーん、なるほど。ならば、僕も徹底的につき合おう。
 ――虫歯で死んだやつなんか、いない !
 ――虫歯で死んだやつなんか、いない !
 僕たち、心を合わせながら、ますます進んでいった。


 

# by tokigakataru | 2007-09-20 20:09 

懲りずに御岳へ



 三日にあげず、というやつなのかな。僕とカズ、日曜日に引き続いて、また御岳まで行ってきた。そしたらさ、上流から流されてしまったらしいひとがいた。僕たち、救出の現場に居合わせた。事の性質状、文章ではこれ以上の説明をしないけど、ごめんなさい。それから、流されてしまったらしいひとは無事でした。


 ――運動後三十分以内のプロテイン !
 帰宅後のカズ、勢いよくジョッキを空にした。
 ――ぷはああっ、すんげえ美味い
 ふふ、満足そう。
 でね、僕は意地悪くカズに言ってみた。
 ――そのプロテイン、焼酎で割ってるじゃんか。そんな飲み方してても効かないって、みんなに言われてるじゃんか
 すると、不適に微笑んだカズだった。
 ――ひひ、病は気からっていうだろ。すべては気持ちしだいなんだよ。効くと思えば効くのさ
 …病は気からって、なんかさあ、言葉の使い方を間違ってるような気がするけど。

 ――オレ、なりたいものがあるんだ
 うつむきかげんに呟くカズ。
 ――え ? なに ? なにになりたいの ?
――いかだ乗り !
 カズのやつ、元気よく答えた。
 昔、奥多摩で切り出した材木を、いかだにして海へ流していたんだって。奥多摩から海まで、そのいかだに乗って行くひとたちがいたんだってさ。


# by tokigakataru | 2007-09-13 20:13 

えふせん、カズの走り書き

 こんばんわ、カズです。今回は僕がブログを書きます。チャーリーはお休みです。なんでなんでしょ。感じ、かな。
 以下、カズが一気に記します。


 チャーリーともども奥多摩・御岳へ。 7時半、川崎・百合丘の住まいを出発。
 10時くらいには御嶽駅付近をふーらふら。案外と近い。
 山間は小さいけれど秋。


 
 多摩川本流は泥色。でも、枝々の沢は澄んでいた。道が沢をまたぐとき、冷えた風に自転車ごと撫でられた。


 道中、総走行距離 4000km を踏む。わーーい、という感じで素直に大喜び。



 ふと思いだして訪れた沢井園。ああ、ビールを飲んじゃったよ。
 自転車に乗っているときはノンアルコールであるべし、本気の本気で考えてるのに。ついつい。

 帰路、福生辺りでシートポストにトラブル有り。へっへっへ、でも近くに遊輪館という自転車屋さんがあるのを知っていた。シートポスト交換。
 後、付近のドコモショップまで。料金プランを変更…いやんなっちゃうわ !オレが住んでるのは百合丘だ。なのに、どうして日常の用を福生で済ませてんだよ。明日でも明後日でもいいことじゃんか。

 17時帰宅。
 今日は 110km 分のあれやこれやを見た。自転車って、素晴らしいと思う。

 ところで、プロテインの焼酎割りって効くの ? いま、飲んでんだけろ。ろろ。

# by tokigakataru | 2007-09-09 21:03 

『岸辺のアルバム』 … 今日の場合

 午前中にさ、台風一過の多摩川へ行ってきた。
 川崎・百合丘の住まいを出て15分ほど、多摩川原橋に到着。
 橋の袂から眺め渡す光景は凄まじかった。
 ――湖かよ…
 カズ、言葉を失った。ふだんはへらへらしてるのに。
 川幅がいつもの三・四倍あった。
 泥色の流れがそこここで激しく波立っている。何本も何本も流されてゆく、葉を繁らせたままの木々。
 



 サイクリングロードを上流へ。
 河川敷に幾つかあるグランドは、大半が水没していた。
 濁流に取り残されてしまったひとがいたらしい。僕とカズ、救出作業の緊迫した状況を、自分たちの目で見た。頭上に、プロペラの音を轟かせるヘリコプター。


 ――川って、こういうものなんだな…
 カズが呟く。




 

# by tokigakataru | 2007-09-07 23:53 

だんだん楽しくなってきた

 あいつが来る。南の方を歩いている。
 今回はやけにゆっくりじゃんか。時速20㎞ ? はーんっ、僕とカズのほうがよっぽど速い。でも、天を突くような大男だから、あいつの脚首が刺し込まれるたび、海が揺れる。あいつが頭を掻きむしるたび、稲妻が飛ぶ。
 うわ、やめろ、ストレッチをするな、身体を捻るな、こっちにまで風が吹いてくるじゃんか、激坂直滑降中に真横から風を当てるな、アホーーー、 …って言ったから ? ねえ、アホって言ったからでしょ ? 痰まで吐きやがったな、もろにかかったじゃんか、びーしゃびしゃになっちゃったじゃんか。

 僕とカズ、この三日間、台風にもてあそばれっぱなし ! 毎日毎日、ずーぶ濡れ !

 
 

# by tokigakataru | 2007-09-06 18:09 

チャオ ! 新しい生活

 いま、夜の7時半。秋の虫が鳴いている。昼間は暑いけどね。
 夕方、多摩川サイクリングロードを走っていたら、カズの目線より少し上に微かなオレンジ色があった。オレンジのやつ、夏らしくなかった。秋が控え目に会釈してる、そんな感じだった。
 ――あの空の下でさあ、地球はひとつだな
 カズは、そう思ったらしい。この秋、外国に住まいを移す友人がいるんだって。
 ――元気でな、とも思わないし、がんばって、とも思わない。バイバイ、でもなければ、ではまた、とかも違う。……うーん。なあ、チャーリー、あいつに対するピタッした言葉はなんだろう ?
 ――え ? 僕に訊くの ? 僕に訊くなよ。カズ、自分で考えろ


 今日さ、実は3回もパンクしたんだ。
 朝早く、僕とカズは横浜・Tを目指そうとした。15㎞くらいの距離だから、僕たち、のんびりかまえていた。そしたら住まいを出発したとたん、小石が僕の後輪に刺さって。パンク。
 ちゃちゃっとカズが直してくれて、再出発。…すぅおしたらああ、すぐさま同じく後輪に小さなクギが刺さって。またまたパンク。
 カズ、今度はチューブごと取り替えることにしてさ。一回目のとき、パッチを使い切っちゃってたからね。
 新しいチューブをタイヤの内側にはめ込んで、フロアポンプをスコスコさせはじめるカズ。
 スコスコ…、スコスコ……、パンッ !
  プッシュウーーー……
 僕、またまたまたパンクした。
 呆然としていたカズ、すぐ原因に気づいてムンクの叫び顔になった。
 ――うぎゃああああああああああ、タイヤからクギ抜くの忘れてたああああああああああああ
 …けっきょく、カズは電車でTへ。昼過ぎに帰宅後、ソッコーで僕を直すと多摩サイ。60kmを走ってきた。
 
 いまね、カズはビールを飲んでいる。まったりぢぢい、グビグビ勢いを増している。朝からドタバタして疲れたんだって。
 Tで会ったオトナの恋人から言われたはずなんだけど。…二日酔いになるような飲み方はやめてね。


 ――なあ、チャーリー。チャオって、いいよな ? あいつに贈るのにぴったりだよな ?

# by tokigakataru | 2007-08-26 20:26 

とりいそぎ、ごほーこく

 昨夕、僕とカズは90kmを走り終え、住まいに戻ってきた。
 サイクルメーターの示す累積走行距離、2915km。
 ――となればだな、チャーリー。明日中に達成しちまおう
 ――だね。明日も暑いみたいだけど。でもさ、やっちゃおうぜ、カズ


 僕たち、GWに出会った。
 今日――、累積3000kmを踏破した。ふふ。

 ひとりの人間と一台の自転車は、いまね、幸福な達成感に包まれているよ。


 それにしても、暑かった。
 で、カズのやつ、脱いじゃった。

 道中、青梅街道の交差点で、僕たちは信号待ちをしていた。そしたらパトカーが横に滑り込んできた。でも、上半身裸の自転車男はなんの咎めも受けなかった。実のところ、僕はちょっとビビってたんだけど。
 ――バカだなあ、チャーリー。心配することないんだよ。今日、すげえ気温だろ。そんななか、お巡りさんはエアコン効かしたクルマに乗っている。オレは、自転車だ。陽射しに加えてアスファルトからの照り返しも受けている。裸でいるのは犯罪的どころか、健全ってなもんだぜ
 カズ、誇らしげだった。だれか、僕の主人をオトナにしてあげてください。

 じゃあね。
 また ! 

# by tokigakataru | 2007-08-16 19:29 

カズの走り書き

 今日、終戦の日だったじゃんか。
 一日中、チャーリーと走っていた。その最中、暑いのか熱いのか判らなくなった。「熱い」ということについて考え始めてしまった。おこがましながら戦場を思い浮かべた。焼いたり焼かれたりしてたんだよね。――オレのおじいちゃんは、海軍にいた。

 気温40℃で騒ぐなよと、夕方のテレビニュースを観て思った。

 時代小説と大河ドラマ、そして、ナポレオンみたいなひと――ひとつひとつについては、どうか象徴的なものだと受けとめてください――、子供の頃から不思議でした。
 すべてに共通するのは、メの下に漢字のキという字を据えたら右っ側にルマタでしょ。もっともショウの字に義を下添えしたがるひとも多いみたいだけど。
 
 
 どんなに暑くても、熱くはないし、このうえなく水分摂れるし。

 

 生前、おじいちゃんは戦争のことを絶対に語りませんでした。

# by tokigakataru | 2007-08-15 20:03 

一泊二日のちっこい恋人

 昨日、午前8時―― 。
 僕とカズ、百合丘の住まいを出発した。
 あっという間に新百合ヶ丘まで走ったら、麻生川沿いを柿生まで。ざっと5km。
 次に、鶴見川経由で青葉台へ。この区間、8kmくらい。
 青葉台からは R246 伝いに横浜町田インター付近をを目指した。もう、わくわくしたよ。どんどん海が近づいてくる。246は、5kmほどを走ったのかな。クルマがね、とても走りづらそうだった。お盆だから、大渋滞。僕とカズは車道と歩道を自由自在。車道の左端を、大型車やアタマの悪い普通車にふさがれてるようなときでも、カズ、僕をひょいと担ぎあげて歩道に入っちゃうんだ。
 ふふ、246を走り終えたあとは境川サイクリングロード。海まで、あと25km。
 ――ひと息に南下だ、チャーリー !
 ――ざっつあらい !
 That's all right だぜ、カズ。ひと息に南下しよう。25km先からは、海の空気が流れてくる。心さえあれば、潮の香りだってかげる。


 10時半、僕たちは湘南の海に到着した。
 そして、ビッグプレゼントは海だけじゃなかった。カズの恋人、ももちゃんと落ち合ったんだ。


 海の家の間借り料。大人一名1500円、子供一名800円、自転車0円。
 僕、ひそかに人気者だったよ。ちっちゃな子供たちが、
 ――ああっ、じてんしゃだーじてんしゃだー
 叫びながら何度も何度も遊びにきた。カズがももちゃんと海に浸かっているあいだも退屈しなかった。





 帰りの246では時速50kmを越えちゃうこともしばしばあった。だって、ももちゃんとももママが電車で移動してるからさ、急がないと百合丘駅での待ち合わせに遅れちゃう。

 百合丘で、ももちゃんと食事。ゆっくりゆっくり話していた、ふたり。


 






 ももちゃん、カズの家に泊まったんだよ。
 そしたらね、大興奮。なかなか眠らないの。





 でさ、眠ったなあと思ったら…
 大きな大きな満月を作ってくれたんだ。お布団にね。はは。

# by tokigakataru | 2007-08-12 20:35 

夏休みの過ごし方

 思うこと、重たいことはいろいろあるけれど、振る舞いは常にへらへら楽しく。
 ――と、記しとけ
 カズに強く言われた。だから記しておきました。僕には、なんのことだかわからない。…あ、ひとつだけならわかる。「へらへら楽しく」っていうのはカズのオリジナルじゃない。カズがとても愛しているジャズピアニストのセリフ。ピアニストの語った言葉を、カズは20年以上も胸に置かせてもらってるんだ。
 
 いま、夕方の七時。
 川崎・百合丘に雷が到着した。
 どんどんおいで。もっと光ってよいよ。僕とカズ、今日は充分過ぎるほど遊んできたからさ。
 多摩川のサイクリングロード伝いに羽村まで行ったでしょ、福生の石川酒造にも寄ったし、カズが国立で髪の毛を切るのにもつきあった。それにね、カズを自転車にハメた先輩と会うこともできたんだ。先輩とは府中あたりの多摩川べりで落ち合って、自転車談議をしてからプールにも行ったし。
 ――おい、チャーリー。先輩へのお礼、ちゃんと書いとけよ
 はーい。もちろん書くよ。僕だって、幸せを味わったからね。楽しげな夏の野外プールを眺めててさ、僕、とてもくつろげたもの。
 先輩、まずは僕からです。ありがとうございました。
 そして、次にカズからです。プール代やら麦茶やらアイスやら水着やら、なにからなにまでありがとうございました。漕いで泳いで、これこそまさに夏休みという感じの一日、幸せでした。

 ――じゃあ、オレはもう寝る
 カズ、くにゃんくにゃんになっちゃってる。遊びすぎだよね。



 今日、僕たちが走った距離は85キロ。そのうえカズは二時間くらいプールに浸かってた。くにゃんくにゃんでも、しかたないのかな。

# by tokigakataru | 2007-08-05 20:29 

ねぼすけ

 さっきね、笑っちゃった。
 夕方の六時半、カズが昼寝から目覚めた。そしたら、カズってば何を始めたと思う ? くふふ、シゴト先へ向かう仕度を始めちゃったんだ。カズ、朝の六時半だと勘違いしたの。
 たしかにまぎらわしい空の様子ではあったよ。夜の気配が忍びきているけれど昼間の明るさも、まだまだ残っていて。朝方の空に雰囲気が似ていた。
 ごそごそと30分ほどもかけて、カズが仕度を整え終えた。ドライメッシュの T シャツに半ズボン、背負ったバックパックにはシゴト先で着るシャツと長ズボンが入っている。
 ――ふああ、じゃあ行くか、チャーリー
 カズ、住まいから僕を運びだそうとしたんだけど、…にわかに微妙なものを感じたみたい。ケータイで友だちに連絡を入れた。
 ―― …あのさあ、もしかして今って夕方 ?
 夕方だぜ、カズ。
 でね、電話を切った直後に、別の友だちだら連絡があってさ、ケータイが鳴った。酒場への誘いだった。あはは。どうだ、カズ。しっかり夕方でしょ。



 最近のカズ、自転車とか自転車とか自転車とかに関わる本しか読んでいない。

# by tokigakataru | 2007-07-30 21:47 

海へ、ツール・ド・多摩サイ

 僕とカズ、朝の10時に住まいを出発した。目的地は多摩川河口。片道35キロくらいかな。そのあいだ、ほとんどの距離を川沿いのサイクリングロード・多摩サイで過ごすんだ。それって、とんでもなく気持ちいいの。だからさ、僕、住まいを出たとたん猛ダッシュ。
 ――キミは、散歩を待ちわびていた犬ですか ?
 カズにニヤリとされちゃった。


 素敵なことってあるんだね。多摩サイに乗り入れた頃から、ぐんぐん天気が良くなってきた。梅雨も中休み。充分に強い陽射しでさ、ときどき蝉も鳴いていた。ああ、夏なんだな、って思った。カズもこそばゆそうに眼を細めていた。太陽にくすぐられているかのようなカズの顔、大人の表情じゃなかった。
 ――おい、もうすぐ39歳。あなたは子供ですか ?
 僕、言い返してやった。
 
 川崎・大師橋から先、神奈川側の川べりを海へ向かって行く、それが多摩サイの最終区間なんだけど、ありえないほど素晴らしい道のりだったよ。
 グライダーみたいな海鳥たちが風に舞っている。羽田を離着陸する飛行機がゆったりゆったり飛んでいる。海の広がりが見える。潮の香りがする。青空がある。そういう光景のなかを、僕とカズは走っていた。…正直に言うね。僕さ、ちょっとだけ泣けてきた。
 ――おまえ、ヘンなところで涙もろいな
 カズにあきれられた。でも、しょうがないじゃん。僕、何かに心の窓を揺すられたんだ。そういうことってあるよね。




 帰り道、たまプラーザのコギーというお店で微細を点検してもらった僕。なんだか格好が恥ずかしい。

# by tokigakataru | 2007-07-22 20:15 

なぜ、そこにある ?

 今朝、霧雨。
 僕は思った。針で突いたような小っちゃい穴が、雨雲にはたくさん開いてるんだ。でさ、その穴から、じゅわじゅわじゅわじゅわ水漏れしてるんだよ、きっと。
 ――知るか、こんな雨。行くぞ、チャーリー
 カズは強気だった。僕だってそう。梅雨のせいで、僕たちタマっちゃってたからね。
 ――よーし、出かけようぜ。濡れるのなんてかまうもんか
 ――はは。だよな
 カズ、笑いながら僕のサドルを叩いた。ポンと一発、出発の合図。百合丘の住まいから出走だ。

 最初に向かったのは、お父さんのところ。僕の、じゃないよ。西武球場の近くでカズのお父さんに会った。
 カズはとても照れくさそうだった。お父さんもだったけど。
 そんなんだから、カズのやつ、ほんの十五分くらいでお父さんのいる建物から出てきちゃった。僕のことだって、さんざん苦労して建物の中に担ぎ込んだのに。
 ――父親と息子ってのは、だらだら会話しないんだよ
 カズによれば、そういうことらしい。
 ――しっかしさあ、チャーリー。あれは許せない
 カズの指差す先に仏具店があった。つまり、カズがいまさっきお父さんと話してきた建物の目の前に。
 ――場所を選べよ、とオレは思うぜ。もっとも、選んだからそこにあるんだとしたら、どうしようもなくハレンチな発想だ


 
 カズのお父さんと別れた後、青梅まで行って、そこから羽村へ。その後は、多摩川サイクリングロード。当然じゃん ! 僕もカズも、多摩サイを走るのが大好きなんだ。雨もね、いつのまにか降り止んでいた。  
 
 僕とカズ、一緒になってから二ヶ月とちょっと。残り35キロで二度目の記念日がやってくる。

# by tokigakataru | 2007-07-19 20:23 

気持ちのよいシャワーみたいなもんさ

 カズが呟いた。
 ――すっげえタイトルだなあ
 いま、部屋に流れているのは「Can We Still Be Friends ?」という曲。
 まさかね、と僕は思う。カズ、この曲を聴きながら僕とのことを考えているわけじゃないよね。「We Can Still Be Friends」だよね。

 

 さっき、多摩川べりを30キロくらい、カズと走ってきた。もう、びーしょびしょ。午後、いったん降り止んだ雨にだまされた。でも、だまされちゃったひとと自転車たち、多摩川のサイクリングロードにはたくさんいた。おかしかったよ。誰ひとりとして憂鬱そうな顔じゃないんだ。降られて濡れてぐしょんぐしょんなのに。
 ――シャワー浴びつつ漕ぐってのも、いいもんだな
 いみじくもカズが言ったけど、みんなして同じような気分だったんじゃないかな。

 ここのところ、カズが読み耽っているのは「サイクリングブルース」という本。キヨシローさんが書いたんだって。
 ふふ、ばらしちゃお。14歳のとき、カズはファーストキスをしました。そのとき、ベッドの横で流れていたのがキヨシローさんの曲でした。「こんなんなっちゃった」って、くり返しくり返しキヨシローさんにシャウトされながら、チュッチュしてたらしいよ。


 一瞬、晴れたんだけどなあ。

# by tokigakataru | 2007-07-15 19:38 

Take me around with you.

 はああ…、いやんなっちゃうよ。三日間、雨続きじゃんか。僕、ずーっと家の中にいるんだぜ。
 カズもね、いいかげんダメみたい。ひっきりなしに雨空を見上げては、
 ――うー、乗りてえ。すげえ漕ぎてえ
 ぶつくさ唇をとがらせてる。でも、窓越しに降る雨の態度は変わらない。しとしとしとしと、降り止む気配なんかまるでなし。
 そしたらカズのやつ、とうとう辛抱できなくなっちゃったみたい。今朝、僕を漕ぎ出そうとした。ほのかに陽射しもあったしね。天気予報では、午後から雨と告げられてたんだけど。
 ――行こうぜ、チャーリー。帰り道、濡れたってかまうもんか。今が晴れてる
 そう言うと、カズはバックパックにスーツカバーを括り始めた。スーツなんかめったに着ないのに、今日は必要だったらしい。

 ――ただいま、チャーリー
 午後遅く、四時くらいだった。カズだけが住まいに帰ってきた。今朝、僕はけっきょく置いてかれたんだ。ギリギリのところで大人の判断をした、カズ。
 さびしいな、大人の判断。連れてけよ、僕も。
 

 毎日毎日、雨、雨、雨。
 自転車や自転車乗りたち、みんな暴れ始める寸前だよね、きっと。


 

# by tokigakataru | 2007-07-12 21:30 

カズの恋人

 カズには大切な恋人がいる。ももちゃんっていうんだ。でね、今日はさ、ももちゃんに会ってきた。
 ももちゃん、ちょーかわいかった。コーラの缶、抱えるように持ちながらひとくち飲んでは、ぷはーっ。またひとくち飲んでは、ぷはーっ。そんなようすに、僕、気持ちがハートマークになっちゃった。カズなんか、めろんめろんのでーれでれ。あのさ、ももちゃんがチューしてるのはコーラなわけじゃん。なのに、カズときたら、まるで自分がチューされてるみたいだった。目尻の垂れぐあいがスゴイの。地面と垂直状態。

 西武球場の近くで、ももちゃんと別れた後、僕とカズは羽村を目指した。多摩川サイクリングロードを走るために。
 羽村に向かっているときも、多摩川べりを走り始めてからも、僕を漕ぐカズのペースが妙なほど速かった。やけくそみたいに力んでいた。その理由、僕にはなんとなくわかるけど、ここに書くのはやめておく。
 ――いいか、チャーリー。ブログによけいなことを記したら分解するかんな。バラバラの刑だ
 日頃、カズに厳しく言われているからね。


# by tokigakataru | 2007-07-08 22:33 

ヨコハマ、山下公園

 今日、山下公園に行ってきたよ。海の奥行きを眺めているうち、外国を走り廻りたくなってきちゃった。


 停泊中の船がふいに汽笛を鳴らしてさ。鳩たち、驚いたみたい。いっせいに羽ばたいて、どこかへ姿を消してった。そのときね、どうしてだか僕は思ったんだ。横浜じゃなくてヨコハマ、その方がビタッとくる。でも、ヤマシタ公園はおかしい。だから、僕とカズが訪れてきたのは、ヨコハマの山下公園です。目の前に海が開けている、とても清々しい公園。外国へ続く一本道の見える公園。


 山下公園を後にしたのはお昼過ぎ。川崎から多摩川サイクリングロードに乗り入れた。一気に雲が切れ出して、梅雨だなんてウソみたい。青空の下、川べりの道を僕とカズは進んでいった。
 あれ ? 違和感を覚えたのは二子玉川まで来たとき。いつもならぐんぐん登戸を目指すはずのカズが、二子橋を渡って街の方へ向かい始めた。
 ――どうしたのさ ? なんでサイクリングロードを降りたの ? 
 ――経堂まで行くんだよ。理由は訊くな
 カズの口調、有無を言わせないという感じだった。イライラしてたんだ。高島屋あたり、お約束とはいえ雑踏の賑わいがすごかったからね。車道も歩道も平日とは思えないくらいごった返していた。
 経堂に到着。で、とある本屋さんに入っていったカズ。ちょっと穏やかじゃない足取り。僕、ガラス窓越しにカズの様子を見ていた。そしたらカズのやつ、携帯電話の画面を店員さんにかざしながら、なにやら告げている。物腰は柔らかそう。でも、僕にはわかる。さりげなく喧嘩腰だ。心配しちゃったよ。カズってたまにやらかすからね、言葉の暴力。
 どうやらさ、カズが本を注文したんだけど、手違いで経堂の本屋さんに届いちゃったらしい。本当は住まい近くにある新百合ヶ丘のお店に届くはずだったみたい。


 カズが注文してたの、自転車本なんだ。「自転車日記」。書いたひとは、高千穂遥さん。
 ――すっげえ読みたかったんだぜ。キョードーからシンユリまで転送されるの待ってらんねえよ
 住まいに帰った後、カズは「自転車日記」を撫でまわしていた。


# by tokigakataru | 2007-07-05 23:35 

涙とパンクが僕の武器

 まったく、もう。僕は怒ってる。
 日曜日、僕とカズは多摩川サイクリングロードを走ってきた。カズのやつ、そのときに撮った写真を今の今まで放りっぱなし。おかげで僕、ブログを書けずにいた。
 僕はね、思ってる。「チャーリーザウルス」は、僕の文章とカズの写真で成り立たせなきゃ。どちらが欠けてもダメ。そんなこと、カズはぜんぜん考えてないようだけど。なにしろ、
 ――チャーリーってさ、ブログなんかよくやってられるよな。めんどくさくないの ?
 デリカシーの欠け切った言葉を平気でぶつけてくるからね。
 気づけよ、カズ。僕の自転車心に。そこいらへんの女の子なんかより、僕のほうがよっぽど繊細なんだぜ。見かけは自転車でも、心は可憐な花なのに。
 ロングライドにしてもそうだけど、僕さ、カズと一緒に何かをやりとげていくのが好きなの。やりとげるっていうのは大げさかもしれないけど。とにかく、僕だけが、カズだけが、っていうのは好きじゃない。ブログにだって、カズの撮った写真も載せておきたい。でも、僕の気持ちなんかどこ吹く風っていう感じのカズ…。
 ため息、出ちゃうな。すれ違いを感じてしまう。すねるぞ。泣くぞ。パンクしちゃうぞ。




# by tokigakataru | 2007-07-04 23:55 

僕にまたがる寅さん

 今朝、七時くらいだったかな。カズはきちんと起きた。そして、僕に呼びかけた。
 ――おはよう、チャーリー
 かすれている声だった。
 ――うわ。どうしたんだよ、その声 ? ひゅーひゅーざらざら、なんかものすごいけど
 ――はは。夕べさ、もしも脳みそが女になってしまったらごっこをやってた。そいでよお、脳みそが女になったら声も女になるのかなと思って、キーキーキャーキャーした声音で喋りまくってたんだ。あー、おもしろかった
 僕、がっくり。なにしろカズときたら、このあいだ深夜に死体ごっこをやっていて、お巡りさんをビビらせたばかりなんだ。
 死体ごっこっていうのはね、別名を行き倒れごっこっていうの。公園の砂場でドザエモンのごとく仰向けにひっくり返って星を眺める、ただそれだけのことなんだけどさ。そういう行為を真夜中にやらかしちゃうのは、やっぱりいろいろマズイよね。
 ――なんだ、チャーリー? お前、またつまんないことをごちゃごちゃごちゃごちゃ考えてんだろ ? 行き倒れのふりしながらも、えっへん、うつ伏せだけは禁止だかんな。仰向けだ、仰向け
 僕、カズにサドルをひっぱたかれた。痛っ、と思ったけど、出発の合図でもあるんだよね。ふたりして住まいから出かけるとき、カズは必ず僕のサドルをたたく。
 ――行くぞ、チャーリー。津久井湖だ


 今日、僕とカズが走ったのは九十キロほど。百合丘の住まいから津久井湖へ。その後、
 ――やっぱ、多摩川だよな
 方針決定という感じでカズが告げて、僕たち、関戸橋を目指した。





 
 カズにとって、トンネルはそうとう恐い場所らしい。僕もあんまり好きじゃないな。
 

 
 夕方、住まいに帰った後、カズはずっと地図を眺めていた。そしたら言ったんだ。
 ――チャーリーくん、大変なことを発見してしまった
 はああ…、僕は溜息。「くん」がついてるじゃんか。カズ、なにか良からぬことを思いついたに決まってる。
 ――今日走ってきた413号さ、なんとですね、山中湖まで続いてるぜ
 はいはい、そうだね。つまるところ道なんて全部つながってるじゃん。行こうと思えばどこまでも行けるよ。わかってるの、カズ ? 413号、山中湖まではひたすら峠だらけだぜ。
 「オトナの理性」という言葉、この際だからカズの耳に吹き込んでおきたい。僕は一瞬、そう思った。
 でもさ、やめた。息、吹けない。
 だって…、だってね、僕、山中湖まで行きたくなってきた。
 ひええ、どうしよう。行きたい。行きたい。行きたいよ。行きたくて行きたくてしかたなくなってきた。 

 ねえ、カズ。峠の途中で行き倒れたらさ、死体ごっこしよ。百合丘で見るより、たぶん星だってずっとずっときれいだぜ。

# by tokigakataru | 2007-06-28 21:09 

昼間のゾンビ

 ――ううう、すげえアタマ痛てえ…
 くり返しくり返しカズが呻いていた。昨日の夜、友だちとお酒を飲んでいたんだって。
 ――いつのまにかボトルが並んでやがった。ずらずらあーっとさ、ビッグバンドなみ。オレらカルテットだったのに、ありえねえ。罠だ。いったい何本空けたんだ
 熱いシャワーを浴びたり、胃薬や頭痛薬を飲んでみたり、氷を頭に当てたり…、カズはいろんなことをやっていた。でも、けっきょく口をついて出るのは、
 ――ううう、気持ち悪りい。すげえアタマ痛てえ…
 というセリフ。
 ベッドにひっくり返り天井を見ているカズの目に、まるで力がなかった。虚脱しきっていた。握り合わせた拳を胸の上に置いているようすが、ひどく憐れだった。
 そんなカズがヤケクソの行動を始めたのは、お昼過ぎ。
 僕の漕ぎ手、近所の中華料理屋さんに出かけると、激辛タンメン大盛りというのを食べた。ショック療法だとカズは教えてくれたけど、この荒療治は大博打。なにしろドラマチックなほどに効くこともあれば、とてつもなくバッドにはまることもあるらしい。
 で、今日は…、大失敗。中華料理屋さんから帰った後、僕が見たのはベッドとトイレを往復し続けるゾンビだった。凄まじかったな。まあ、かろうじて僕たち、三時くらいにはカズのシゴト先にいたんだけどね。カズはとことんまで虚ろな感じでシゴトをしてたけど。
 『オレの行動原理はシンプル。好きか嫌いか』、小説の登場人物にそう語らせたのは、カズが心から尊敬している作家のひとなんだって。それでさ、このセリフをもじったカズは、
 ――オレの行動原理は本能と勘だかんな
 何かに迷ったとき、いつも自分に言い聞かせている。
 今日、カズの本能と勘は激辛タンメン大盛りを求めたらしい。はは、それでもって大ハズシしてやんの。
 カズが立ち直ったのは、夕方を迎えてからだった。街に五時の鐘の鳴る頃、ダメ人間、ニョキっと復活 ! やおらそう叫んだカズは、シゴト先のひとびとを困惑させ、苦笑させていた。
 夕方も五時になってようやく使い物になるやつ、それがカズ。…ふつうの勤め人だったら、とっくに破滅してるよね。それはカズも自覚してるみたい。だからカズ、自分が生きていられることにはとても感謝してる。
 ――だったらさー、もう少しお酒をひかえればイイじゃん
 僕は促してみた。
 ――いや、それは無理
 カズの返事は、潔く、きっぱりとしていた。一点の迷いも感じられなかった。



# by tokigakataru | 2007-06-25 23:32 

梅雨の霍乱

 ―― だめだ、わからねえ
 カズが呟いた。くやしそうだ。
 ずいぶん時間をかけて僕の前輪周りを調べていたカズだけど、お手上げみたい。投げやりな感じでアーレンキーを放り投げた。
 僕とカズ、今日は秋川渓谷まで行ってきた。そしたらさ、走っているあいだ、ずっと前輪付近がおかしかった。どうにも微妙な異音を立てていた。カズ、道行くとちゅうにも何度か手当てをしてくれた。でも、とうとう住まいにもどるまで僕の状態は変わらなかった。
 ベランダのすみにアーレンキーがころがっている。それをカズの右腕が拾いあげる。
 ―― チャーリー、早いうちにプロのところへ行こう
 あきらめたようにカズが言った。




 
 勢いよく蛇口を捻る。水流が噴き出す。その下に頭を突っ込む。
 今日みたいに暑い日、川べりの水飲み場は、カズのシャワーになる。
 

 
 ―― ははは、チャーリーザウルスだ
 カズが笑った。 
 はは、僕も自分の姿を思って可笑しくなる。
 梅雨の霍乱とでも言いたくなるほど、いい天気が続いているよね。
 ときに小さなトラブルはあるけれど、けっきょくのところ僕とカズは幸せなんだ。
 
 

# by tokigakataru | 2007-06-21 19:43 

45日目の記念日

 僕とカズ、ちょっとした記念日を迎えた。
 サイクルメーターが999.99の次を刻んだ瞬間、
 ―― ひゃっほーだ、チャーリー !
 カズが呟いた。力強く。
 奥多摩・二俣尾まで行ってきた今日、僕たちは1000キロの距離を踏んだ。




 朝の7時、僕とカズは百合丘の住まいを出発した。
 多摩川べりは何度走っても飽きることがない。
 今日もいろいろなものを見た。







 カズが急ブレーキをかけた。看板に「ぽん太」と記されたお店の前だった。

 ―― わお、チャーリー。あのひとがいるかもしれない。げ、叩いてたりして
 カズ、大好きなドラマーのことを言ってるんだ。
 いるわけないじゃん。奥多摩の山奥じゃん。しかも真昼間じゃん。なんであのひとがドラム叩いてるんだよ。
 好きな気持ちって、ひとを狂わせる。それは僕にも分かる。でも、ちょっとは理性を働かせようぜ、カズ。
 なんて、生意気も言うけど。
 僕はとてもうれしい。今日は記念日なんだもの。



 最高の天気だった。はぐれ雲たち、ところどころ空に薄化粧をほどこしている程度でさ。


 ―― おい、チャーリー。ごちゃごちゃブログなんかやってないで、早くこっちへ来い。乾杯しようぜ。祝杯だ祝杯
 はは、さっきからカズが急かす。
 カズ、浮かれている。僕も。
 



 おい、カズ。もっともっと遠くへ行こうぜ 。

# by tokigakataru | 2007-06-17 22:38 

めそめそしくしく

 誰か空にきいてあげてよ、何がそんなに悲しいのって。空のやつ、めそめそしくしく、朝からずっとじゃん。こっちまで悲しくなってくる。カズには置き去られたし。
 僕を置いて、カズがどこへ行ったかというと、フィットネスクラブなんだ。ほら、例の動かない自転車、あれを漕いできたんだって。
 ―― いやあ、シュギョーだったぜ。35キロ、動かない自転車を漕いできた。はっきり言って、つまんねー時間だった。進まないんだもん、自転車
 帰宅したカズは不満そうだった。まるで進めない一日を過ごしていたのは、僕も同じなのにね。
 ―― でもさ、道路と違って飛び出しとか転ぶとか絶対に無いじゃん。だから、スピードにかけ続けてたんだ。時速50キロくらいでシャカシャカやってた。最高だと60キロくらい出たぜ。そんなの喜べないけどな。ロードの選手って、70キロとかで練習してるじゃん。やっぱ、そうでなきゃな
 …そうでなきゃなって、いったいカズは何を目指し始めたんだろう。目がボーボーに燃えていた。いや、燃えていたのなら別にいいんだ。正確なところを記すと、カズの瞳は萌えていた。カメラのファインダーを覗いているときと同じ瞳。
 こわい。



 

# by tokigakataru | 2007-06-14 21:13 

Come Rain or Come Shine

 
 今朝、カズは四時に起きると、シゴトを始めた。それって、午前中に僕と遊ぶためだった。
 関東は明日から梅雨入りなんだってね。でも、今日いっぱいは晴れる。だから僕とカズ、今日のうちに精いっぱい走り廻っておくことにしたというわけ。
 カズがシゴトを終えると、僕たちは出かけた。九時くらいだったかな。素晴らしい天気でさ、見晴るかす限り青空だった。多摩川べりを登戸から下丸子付近まで往復してきたんだけど、そのあいだ、気温もぐんぐん上がっていった。
 百合丘の住まいに戻ったのは、ちょうどお昼くらい。すかさず、カズがシゴトを再開した。僕に乗る前後は異様にシゴトが捗るんだって。
 
 へへ、午後遅く、もう一回カズと走ったよ。カズのシゴト先までついていった。
 帰り道、夜闇に浮かぶ多摩川原橋がとてもきれいでさ。オレンジっぽい光が、橋を、僕とカズを、おだやかに染めていた。カズ、思わずといった感じで僕を止めると、橋の途中で写真を撮り始めた。


 
 もうすぐ日付が変わろうとしている。天気予報は梅雨入りすることばかりを告げている。
 でもね、ついさっきカズが言ったんだ。
 ―― おい、チャーリー。明日、完璧なレインウエアを買いにいこう。そうすりゃ、梅雨とか関係ないじゃん
 わーお !
 そうだよね、梅雨とか関係ないよね。
 降っても晴れても、僕とカズは走り廻るんだ。

# by tokigakataru | 2007-06-13 23:57 

タイヤの首輪

 夜、カズは必ずビールを飲む。
 そのひとときに寄り添うのが、僕は好きだ。今日見てきたもの、起きた出来事を、僕たちはゆったり振り返る。
 ―― チャーリーさあ、今日はけっこう大変だったよな
 カズの表情に充足感がある。 




 今朝、空いっぱいに塗りこめられていたのは鉛色の雲だった。誰しも判断の誤りようがない。まちがいなく雨が来る。
 ―― しょうがねえなあ
 カズが言った。どこか開き直っているみたいな口調だった。
 しょうがないよね。僕もそう思う。カズとの遠乗りはおあずけ。
 ―― …しょうがねえからさ。雨の降らないうちに関戸橋あたりまでぱぱっと走ってこようぜ、チャーリー
 え ?
 意外だった。カズ、出かけるつもりなんだ。
 僕とカズの住まいは百合丘という場所にある。そこから多摩川の関戸橋までを往復すると30キロほど。一時間半もあれば帰ってくることができる。雨、大丈夫かな。空の鬱陶しい気配からするとギリギリのセンだ。
 ―― だーいじょうぶ、雨は絶対に降らない。行くぞ、チャーリー
 根拠なんかまるで無いのに、自信に満ちているカズだった。
 僕も覚悟を決めた。雨に濡れたところで、だからそれがどうした。

 
 そして…
 

 潔く出発したものの、住まいから1キロも走らないうちに僕はパンクした。
 カズが僕の修理を終えると、今度は空に無数のパンク穴が開いて、噴き出してきたのは雨、雨、雨。

 
 午後遅く、雨はあがった。

 ―― やんだやんだ、やんだぞチャーリー。お出かけだ、行くぞ
 カズが踊るようにはしゃいだ。散歩を待ちわびていた飼い犬みたいに。
 空には雨雲に紛れて青い色がある。うお、雨やんだじゃん。ちょっとじらされたけれど、今日も僕とカズは外を走れるんだ。

 
 そして…

 僕はまたまたパンクした。今度はタイヤに穴が開いていた。
 ―― あるんですなー、こういうことって。一度ばかりか二度までも。まいったでやんす
 ―― ほんと、あるんでやんすなー。あたし、今日は傷だらけでやんす。前輪がチクチクしどおしでやんす
 おどけるしかない、そんな気分の僕たちだった。 
 カズのパンク修理も同じ日に二度目となれば手馴れたものだ。
 ―― けどさ、タイヤに穴が開いてるっていうのはマズイよな。よゆーですぐにパンクするぜ
 カズもときどきは、少しばかりの思慮深さを見せる。
 

 でね、たまプラーザにあるコギーというお店で、カズが新しいタイヤを買ってくれた。住まいに戻るまでの7キロ、カズはタイヤを首に巻いていた。
 ―― へっへっへっ、タイヤネックレス男だぜ。みんな、見て見てー
 そうとう恥ずかしい格好なのに、カズはうれしそうだった。



 
 
 夜になると、カズはビールを飲む。
 くつろいでゆくカズのひとときに寄り添うのが、僕は好きだ。
 ―― なあ、チャーリー。今日って、けっこうおもしろかったな
 どんなときでもへらへら楽しく、カズはそう決めているんだって。

# by tokigakataru | 2007-06-10 23:58 

< 前のページ 次のページ >